依頼者からの記録漏れを含めた老齢年金の裁定請求も無事終了することができました。あとは年金証書と実際に(過去5年分の遡及分を含めて)年金額が振り込まれるのを待つだけになります。裁定請求が終わるまではこの件については記載を控えていましたが、すでに依頼者からの許可は得ているので月曜日あたりに「記録漏れ」についてのことを書こうと思っています。
今日は年金から離れて、労災のことを書こうと思います。日経新聞に以下のような記事が記載されていました。
(NIKKEI NETより)
請負大工は「非従業員」、最高裁が労災支給認めず
建設会社の下請け工事中にけがをした大工の男性への労災を不支給とした労働基準監督署長の処分が妥当かが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷は28日、「仕事を請け負い、工事の完成に対して報酬を得る大工は労災保険法上の労働者ではない」と判断し、処分を妥当とした1、2審判決を支持、大工側の上告を棄却した。
労働基準法で労働者は(1)会社の指揮監督を受ける(2)労務に対する賃金を受け取る――と規定。労災保険法上も同様に扱われ、1人で工事を請け負う大工は対象外となる。
泉徳治裁判長は「男性は作業の手順や時間を自分の判断で選択できた。報酬は従業員より相当高額で、出来高払い中心」と指摘。「実質的に元請け会社の指揮監督下で作業する立場で、従業員と同じ」とする男性の主張を退けた。
(ここまで)
行政解釈では以下のような解釈があります。
「請負契約によらず、雇用契約により、使用従属関係下にある大工は労働基準法上の労働者(昭23.12.25基収4281号他)」
つまり、雇用契約であれば引用記事のような大工でも労働者として扱われていた可能性が高かったものと思われますが、契約としてはおそらく請負であったものと思われます(「実質的に」指揮監督下で作業する立場と記載があることもその証明になるかと思われます)。ということで裁判所は原告は「労働者に該当しない」ということで原告の主張を退けたのでしょう。
ただし、このような大工は労災保険の対象にならないかというと、そうではありません。労災保険法には「特別加入」という制度があります。それではどのような方が対象になるかというと、下記のような人です(スペースの都合上、単純に書きます)。
(1)中小事業主等
(2)一人親方等
(3)海外派遣者
引用記事のような「1人で工事を請け負う大工」は(2)の一人親方等に該当します。ただし、その人が団体の構成員(引用記事の場合だと、何かしらの大工団体に構成員として加入=その団体が事業主となり、その下で一人親方等を労働者として保険関係を成立させる)となっていること、その団体が申請書を労働基準監督署長を経由して都道府県労働局長に提出することなどの条件を満たさなければなりません。つまり、通常の労働者としては認められないものの、上記のようなプロセスを踏めば特別に労働者扱いをしましょう、ということになるわけです。
引用記事の内容でしか判断できないのですが、おそらくこの一人親方の労災特別加入のことを知らなかったものと思います(現実には、一人親方の労災特別加入のことを調べろといっても無理があると思いますが・・・)。逆に知っていれば最高裁までいった裁判費用などの余計なコストがかからなかったはずです。また、保険給付に関することですから裁判の前に審査請求→再審査請求というプロセスもあったわけで(このプロセスがないと訴訟は起こせない)、かなりの時間も費やしたはずです。
こういったことが起こらないように(労働)行政も積極的にアピールしなければならないと思うし、このような問題の専門家は我々社労士しかいませんから、社労士も同様に積極的にアピールしていくことが重要であると思いました。